ニュースの概要

米国のオンライン遺産計画サービスTrust & Willが、ネバダ州で認可を受けた独立法人「Trust & Will Trust Company」の設立を発表した。同社は、デジタル遺産計画の事業者が自ら規制を受ける法人受託者(=信託財産を預かって管理する専門の法人)になる初の事例だと説明している。これまで遺言や信託の書類づくりはオンラインサービスが担い、実際の財産管理は弁護士、銀行、信託会社が担うという分業が一般的だった。今回の設立で、書類の作成から亡くなった後の管理までを同じ会社グループの中でつなげる体制が整う。

引用元: Trust & Will、デジタル遺産計画企業として初の規制対象法人受託者を設立(PR Newswire)

分析・見解

作成するだけの会社から、預かる会社への転換

これまでのオンライン遺産計画サービスは、いわば書類の自動作成機だった。質問に答えると遺言書や信託の書類ができあがる。しかし、書類を作った後に誰が財産を管理し、誰が相続人に分けるのかは、利用者が別に探す必要があった。

今回の設立は、その空白を同じ会社の中で埋める試みである。書類の作成と履行(=書かれた内容を実際に実行すること)を一社で行えば、利用者は窓口を行き来せずに済む。

認可を受ける重みと、背負う責任

法人受託者は、受益者のために財産を管理する立場にあり、法律上の厳しい義務を負う。これを受託者責任という。州の監督を受け、資本や運営体制の基準を満たさなければならない。

見方を変えると、スタートアップが最も苦手とする分野に踏み込んだことになる。画面の使いやすさでは勝負できず、長期にわたる信頼と堅実な運営が問われる。遺産の管理は数年から数十年続くことも多く、事業が短命では務まらない。

利益相反という新しい論点

作成と管理を同じグループが担うと、便利さと引き換えに利益相反(=自社の利益と顧客の利益がぶつかること)の懸念が生じる。たとえば、自社の信託会社を使う前提で書類をつくるよう誘導しないかという点だ。

米国の大手金融機関は、昔から信託部門と販売部門を分け、内部の壁で説明責任を果たしてきた。新しい受託者も、料金の明示と、他の受託者を選べる自由を保証できるかが信頼の分かれ目になる。

日本の制度との違いと、そこから見える可能性

日本では、信託を業として営むには信託業法に基づく免許や登録が必要で、遺言や相続の手続きも弁護士、司法書士、銀行などが分担している。民事信託(=家族の間で結ぶ信託)の利用は広がりつつあるが、受託者を家族が務めると、高齢や認知症で続けられなくなる懸念がある。

米国の動きは、家族に代わる専門の受託者を、手軽で低い料金で提供する発想だ。日本でも、終活サービスと信託会社、専門家のネットワークが連携する動きが進めば、同様の一体型が現れる余地はある。ただし、規制の枠組みが違うため、そのまま移植はできない。

ビジネスへの影響

終活・相続関連の事業者が見直すべき自社の立ち位置

書類作成だけを提供している事業者は、履行段階をだれと組んで担保するかを明確にする必要がある。自社で免許を取るのは重い選択だが、信託会社や士業との提携を整えるだけでも、利用者の安心感は大きく変わる。

まずは、利用者が亡くなった後に、どの段階で誰が動くのかを一枚の図にして公開するとよい。見えない部分を見せることが、信頼の第一歩になる。

金融機関や士業にとっての競争と協業の両面

銀行や信託会社にとって、オンラインで接点を持つ新興勢力は競争相手であると同時に、若い世代へ届く窓口にもなり得る。入口をオンラインに任せ、財産管理を引き受ける分業は現実的な選択肢だ。

士業は、書類の自動化で定型的な作成業務が減る一方、相続人間の調整や税務判断といった人にしかできない仕事の価値が高まる。

導入や提携の前に確認したい三つのチェック点

第一に、料金の総額と、途中で他社へ移れるかどうか。第二に、事業者が撤退や倒産をした場合に、預けた財産と記録がどう守られるか。第三に、作成と管理を同じグループが担う場合の、利益相反への対応方針である。この三点を契約前に文書で確認できる事業者を選びたい。

関連記事